ウサギは小さくて愛らしい見た目とは裏腹に、非常にパワフルな後ろ足の筋肉を持ち、驚くほど素早く動ける動物です。

しかし、自然界では役に立っているこの「速さのための体」は骨にとっては大きなリスク要因でもあります。
今回は、ウサギの骨の特徴と骨折のリスク、飼い主さんが日常生活で気をつけるべきポイントについて、獣医師の視点から解説します。
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ウサギの骨は軽くて折れやすい
ウサギは自然界では「被捕食動物」として、外敵から逃げるための進化を遂げてきました。
その結果、骨は軽量化され、逃げるための筋肉はとても強くなっています。

例えば、ウサギの大腿骨(太ももの骨)は、同じくらいの体重の犬と比べて長くて細く、骨の外側の壁(骨皮質)が非常に薄い構造です。
このように犬の半分くらいの厚みしかありません。
犬や猫では体重の12〜13%を骨が占めますが、ウサギではわずか7〜8%程度。
つまりウサギの骨は軽量で、構造的にもろく折れやすいのです。
骨折の原因の多くは「落下」
ウサギが骨折してしまう原因の第1位は、人の手からの落下。
次いで、ケージやソファなど高所からのジャンプによる落下が続きます。
また、診察時の保定ミスなどの人為的な事故も全体の36%以上を占めています。
そのため飼育環境の工夫や取り扱いの注意がとても重要といえます。
ウサギの骨折は“自分の筋力”で起こることも
ウサギは筋肉が非常に強いため、実は驚いたときに暴れて自分の力で骨を折ってしまうこともあります。
特に、ウサギの体が支えられているときに、逃げようとして後ろ足を強く蹴り上げると、背骨を骨折してしまう事故はよく報告されています。
また、四肢(特に後肢)や腰椎(背骨の一部)など、ウサギにとって重要な運動器の骨折が多く、一度の骨折が命に関わることもあるため、注意が必要です。
術後管理や治療も犬猫とまったく違う
人や犬猫の骨折は、ピンやスクリューなど丈夫な器具を用いて治療していくことがメインです。
一方で、ウサギの骨はピンやスクリュー(骨を固定する金具)をしっかり固定できるだけの強度が不足していることが多く、手術が難しかったり、手術をしてもきれいに治らないことが多いです。
また、術後にじっと安静にしていることが苦手なウサギが多く、固定器具を壊してしまったり、別の部位を再び骨折してしまうこともあります。
小型品種(ネザーランドドワーフなど)では骨がさらに細く、使用できる医療器具が限られることも、治療を難しくしている一因です。
ウサギの飼い主さんが気をつけるべきポイント
1. 落下を防ぐ環境作り
• 高い場所(テーブル、ベッドなど)からウサギを放さない
• 抱っこは無理にせず、足場の安定した場所で行う
• 抱っこする際はしっかりと後肢を支え、驚かせないように静かに保定する
2. 滑りにくい床材を使う
• フローリングはウサギの足には滑りやすく、転倒→骨折につながることがあります
• マットやカーペット、ジョイントマットなどで対策を
3. 狭い隙間やドアの開閉に注意
• ケージの扉、家具の隙間、トイレの裏などにウサギが挟まると、肋骨や背骨の骨折のリスクがあります
• 開き戸の近くにはウサギを近づけない工夫を
4. 日常の観察で早期発見を
「片足をつけない」「ジャンプを嫌がる」「動きが鈍い」「抱っこすると鳴く(嫌がる)」などは骨折や関節の痛みのサインかもしれません
高齢ウサギでは「病的骨折」も要注意
病的骨折とは:骨を弱らせる病気(骨腫瘍、がんの転移、骨粗鬆症など)が原因で、本来なら骨折しないような小さな力で骨折が起こってしまうことを指します
7〜8歳を過ぎた高齢ウサギでは、骨の自然治癒力が落ちるだけでなく、がん(特に子宮腺がん)などによる骨転移によって骨折が起こることもあります。
病的骨折は、ごく軽い動作で起こることもあります。
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まとめ:ウサギの骨は“折れやすい”
ウサギの骨はその構造上、折れやすく、飼い主のちょっとした不注意が大きな事故につながることもあります。
しかし、ウサギの体の特徴を理解し、適切な飼育環境とやさしい取り扱いを心がければ、骨折のリスクを大きく減らすことができます。
ウサギとの暮らしをより安全で快適なものにするために、「骨折しやすい動物」としてのウサギについても理解しましょう。
しかし、いくら気を付けていても事故は起こってしまうもの。
実際に事故が起こったときには、取り乱す気持ちを抑えて冷静に、最善の結果になるような対処について考えましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
読者のあなたがこの記事から何かしらのヒントや情報を得てくださり、少しでもお役に立てたなら幸いです。
他にも、ウサギの飼い方、心理、病気についてなどの記事を書いています。今後もより良い情報を提供できるように努力してまいります。質問、リクエストなども募集しています。
獣医師 たけちよ
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