「最近、うちのウサギの両目が少しとびでて見える…」「目頭に変な膜みたいなものがあろう」
そんな“目元の異変”は、胸腺腫(きょうせんしゅ)という病気のサインかもしれません。
胸腺腫とは、胸の中(胸腔内)にできる腫瘍のことで、進行すると周囲の組織を圧迫し、呼吸困難や胸腔内の血管の圧迫により、目が飛び出るなどの変化が現れることがあります。
本記事では、ウサギ専門の獣医師が「胸腺腫」について、原因・症状・検査・治療法・自宅ケアまで分かりやすく解説します。

私情を挟みますが、管理人の先代のウサギも胸腺腫で亡くなったので、思い入れの強い疾患でもあります
Contents
胸腺腫(Thymoma)について どんな病気
胸腺は胸の中央、胸骨の奥にある免疫に関わる重要な器官です。
ウサギでは高齢になると、胸腺が腫瘍化(胸腺腫)することがあります。
胸腺腫について
- 良性と悪性の両方があります
- 腫瘍が大きくなると、心臓や血管、気管、目の後ろを圧迫します
- その結果、呼吸困難や目の突出、顔つきの変化が起こることがあります
胸腺とは何か
場所は、ウサギでは心臓の上にあります。腺というと、何かを分泌する器官の印象が強いですが(汗腺、乳腺など)、胸腺は何かを分泌するものではありません。白血球の一種であるリンパ球(その中でもT細胞)を成熟させ、適切なリンパ球を送り出している器官です。多くの動物では、幼若の時のみ胸腺が存在し、大人になったら消失するのが通常です。(人では70才くらいまでに退縮が完了するらしい。)しかし、ウサギでは胸腺が大人になっても残ります。これが腫瘍になると胸腺腫になります


胸腺腫は多くの場合は、体のいろいろな場所に転移したりする悪性腫瘍ではありません。
※稀に浸潤性といわれるタイプの胸腺腫もあり、これは転移したりする。ウサギではほとんどない。
基本的に良性腫瘍の胸腺腫ですが、場所が胸の中で心臓の近くなので、肺を圧迫したり、心臓や気管を押したりします。それによって呼吸が苦しくなったりするため、生活していく上での問題となります。
腫瘍の増大スピードは比較的遅めです。
また、腫瘍全般に言えることですが、若い子の発症では成長は早くなりがちです。
どんな子がなりやすいの
一般的には男の子のウサギに多いとされています。しかし実際は、女の子でも普通にいます。
発症年齢は6歳以上が多い印象。
症状 「目が出てくる」などに要注意!
胸腺腫は、初期には分かりにくい病気ですが、以下のような症状が出始めたらすぐに病院での検査をおすすめします。
☑ 片目または両目が飛び出して見える(眼球突出)
☑ 呼吸が荒い・胸元が大きく動く
☑ 食欲不振・元気がなくなる
☑ 咳やくしゃみ、鼻水が出る
これらの症状は、胸腺腫以外の病気でも起こる可能性がありますが、特に目の突出が見られる場合は、胸の中で腫瘍が大きくなっているサインを疑います。
目が出てくる
この中でも特に最初に気が付きやすい症状は、目が出てくること。
胸腺腫でよくみられる目の出かたの特徴
- 両目が出る
- 特に興奮したときに出やすい
- 瞬膜がでる
胸腺腫で目が出てくる理由
目が出る理由としては、ウサギなど目が真横についている動物では、前を見るときに目をすこし飛び出させます。その機能を担うのが眼窩静脈叢で、ウサギで発達しています。
眼窩静脈叢の先の、胸の中ある静脈(外頸静脈)が胸腺腫で圧迫されると、眼窩静脈叢で血液が滞り(うっ血)し、目が飛び出ます。
また、ウサギの目頭にある瞬膜は、目が出るときに圧迫されるため、出てきます。
呼吸が早い
また、そのほかでよくみられる症状は、呼吸が早いこと。
安静時(まったりしているとき)に呼吸数が60回/分を明らかに上回る時は、呼吸促拍であると判断できます。
ウサギの正常な呼吸数は30~60回/分
こんな症状も?
他には疲れやすいことです。(運動不耐性)
あと、あまり知られていないし、専門書にも書いてないのですが、胸腺腫の子は、ふきゅっ、ぷぎゃっみたいな、咳でもくしゃみでもない音を出すと言われることがあります
実際、わたしの前の子もそうでした。瞬膜が出るより前からあったような、、、??
これはただの経験則です。出さない子もいます。


胸腺腫の診断方法|X線・エコー・CTが有効
病院選びの注意事項
最近は、ウサギをしっかり診てくれる動物病院もだいぶ増えてきましたが、それでも病院選びはとても大切です。
できれば、ウサギ専門の病院や、ウサギの診療経験が豊富な動物病院を選ぶと安心です。
ウサギに詳しい動物病院を選ぶことが重要な理由
なぜかというと、例えば「目が出ている」という症状ひとつをとっても、ウサギ特有の病気である胸腺腫をすぐに疑えるかどうかは、やはり診療経験の差が出やすい部分だからです。
また、胸腺腫はレントゲン検査でも見逃されることがあります。
ウサギの胸腺腫による画像の変化は、犬や猫の心拡大(心不全の兆候)と非常によく似ているため、ウサギの診療に慣れていない獣医師の場合、別の病気と誤って診断してしまうケースもあるのです。
せっかくの治療が遠回りにならないように、できるだけウサギの診療に慣れた病院を選ぶことをおすすめします。
病院で行う検査
基本の検査
- X線検査:胸腔内の腫瘤や圧迫の有無を確認します
- 超音波検査(エコー):腫瘍の内部構造や、胸水の有無を評価します
- ±細胞診検査:腫瘍に針を刺して細胞を採取し、検査をすることで確定診断ができます。
必要であればやることもある検査
- CT検査:腫瘍の正確な大きさや、周囲への影響をレントゲンよりも詳細に把握できます
- 血液検査:お薬を使っていけるかどうかの判断に役立てます。
検査では、まずレントゲンを撮ることがほとんど。
レントゲンでは、肺は黒く映るのが正常ですが、胸腺腫の子では心臓の上のところに、白い影がでます。
ただ、正常な子でも胸腺があり、見えにくいところなので獣医師の目に頼って。
レントゲン上で胸腺腫がありそうだとわかったら、エコー検査をします。
エコーでは、超音波で内部の構造をスライスした画像でみることができます。
ウサギの前胸部腫瘤はほとんど胸腺腫ですが、心拡大などとの鑑別のためにエコーで診ておきます。
また、胸腺腫であることを確定させるために、エコーを当てながら、腫瘍に針を刺して細胞をとってくる(FNA)検査をすることで確定診断となり、明確な治療方針を立てることに役立ちます。
細胞診検査(FNAを実施する理由)
こうした検査を行う理由は、胸腺腫以外の病気、例えばリンパ腫や膿瘍(うみのかたまり)などが隠れていないかをしっかり確認するためです。
実際のところ、症状や画像所見から胸腺腫が強く疑われるケースでは、検査を省略することもあります。ただし、リンパ腫や膿瘍の可能性をしっかり見極めておくことで、治療方針がより確実になります。
ちなみに、胸腺腫とリンパ腫はどちらもステロイド治療が中心になるため、治療内容が大きく変わることは少ない場合もあります。一方、膿瘍は比較的珍しいですが、治療法が全く異なるため、必要に応じて慎重な判断が求められます。
そのため、状況に応じて必要な検査を行い、できるだけ正確な診断をつけることが大切です。
胸腺腫の治療法|ウサギの状態に合わせた選択肢
ウサギの胸腺腫の治療には、いくつかの方法があります。状態や年齢、腫瘍の大きさに応じて、最適な治療を選ぶことが重要です
治療
- ステロイド療法
- 放射線治療
- 外科手術(少々非現実的)
補助的な処置
- 腫瘍内の液体抜去
- 酸素ハウスの使用
基本の治療 ステロイド療法
もっとも一般的で現実的な治療法が、ステロイドを使った内科的治療です。
ステロイドには、胸腺腫を小さくする効果があります。
治療を開始したら、1〜2週間後を目安に再度レントゲン検査を行い、腫瘍の大きさがどう変化したかを確認します。
ステロイド治療のポイント
- 腫瘍が小さくなっていれば、ステロイドの量を少しずつ減らしていきます(※ステロイドは急に中止できません)
- 腫瘍が大きくなっている場合は、再度ステロイドの量を増やしますリスト
腫瘍のサイズに合わせて、薬の量を調節しながら治療を続けていくイメージです。
状態が落ち着いてくれば、通院の頻度は1〜2か月ごとに減らすことも可能です。
うまくいけば、少量のステロイドで症状をコントロールしながら天寿を全うする子も少なくありません。
+αな治療 放射線治療の併用
ステロイド療法に加えて、放射線治療を組み合わせることでより高い効果が期待できるケースもあります。
放射線を腫瘍に当てることで、腫瘍を小さくする治療法です。一般的には週に1回だと合計7回照射するのがプロトコルとされています。
放射線治療のメリット
ステロイド単独の場合と比べて、平均生存期間が延びるという報告があります
放射線治療の注意点
- 毎回、麻酔が必要になる
- 放射線による副作用のリスクがある
- 実施できる動物病院が限られている
- 費用がかかる
病院選びや、飼い主さんご自身の負担も含めて、慎重に検討しましょう。
デメリットとしては、毎回麻酔をかける必要があること、放射線の副作用、(あと費用面)です。
また、放射線治療を実施できる病院も限られています。
そのほかにできる処置
胸腺腫内の水の抜去
胸腺腫が大きくなると、腫瘍内部に水(液体)がたまって嚢胞状(のうほうじょう)になっていることがあります。(超音波検査で確認します)
この場合、腫瘍による圧迫で呼吸が苦しくなることがありますが、対症療法として針を刺して水を抜く処置が行われることもあります。
ただし、水は時間とともにまた溜まってくることが多く、何度か繰り返し処置が必要になる場合もあります。
呼吸が苦しい時は酸素ハウスを活用
胸腺腫が大きくなり、なかなか腫瘍が小さくならない場合や、再び腫瘍が大きくなってきた場合は、呼吸が苦しくなることがあります。
その際は、自宅で使える酸素ハウスが呼吸を楽にするサポートになります。
ただし、あらかじめ設置するのはおすすめしません。
なぜなら、常時酸素濃度が高い環境だと、呼吸が苦しいサインに気付きにくくなるからです。
あくまでも、呼吸が苦しいと感じたタイミングで、必要に応じて導入を検討しましょう。


症状の見極め方は? 瞬膜の様子が胸腺腫の目安になることも
筆者自身の経験ですが、以前飼っていたウサギも胸腺腫を患っていました。
その子は、毎月のレントゲン検査のほかに瞬膜の出方を目安に状態を観察していました。
瞬膜がよく出ているときは胸腺腫が大きくなり、逆に瞬膜があまり出ていないときは腫瘍が小さくなっていることが多かったです。
もちろん個体差はありますが、瞬膜の様子もひとつの観察ポイントになるかもしれません。
まとめ |「目が出てきた」ら早めに病院へ
胸腺腫は、進行すると呼吸の苦しさや目の突出といった症状が出ることがありますが、早期に気づき、適切な治療を行うことで、穏やかに生活を送ることができる子も少なくありません。
まとめ
- 両目の突出や瞬膜の異常に早めに気づくこと
- ウサギに詳しい動物病院で検査・診断を受けること
- ステロイド療法を中心に、状態に合わせた治療を行うこと
- 呼吸状態や瞬膜の様子を日頃から観察すること
これらを意識することで、ウサギとより安心して過ごせる時間を作ることができます。
実際に、筆者も自身のうさぎが胸腺腫と診断された経験があります。
だからこそ、「おかしいな」と思った時は、できるだけ早く病院で相談してほしいと感じています。
「なんとなく目が出ている気がする」「呼吸が早い気がする」
そんな小さな違和感が、早期発見のきっかけになることもあります。
大切なウサギさんのために、日頃からの観察と、必要に応じた医療のサポートをぜひ意識してみてくださいね。
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