今日はウサギで多く、少しずつ有名になりつつある(?)疾患である、胸腺腫についてです。
私情を挟みますが、管理人の先代のウサギも胸腺腫で亡くなったので、思い入れの強い疾患であります。
Contents
胸腺腫(Thymoma)について どんな病気
「胸腺腫」というワードを分解してみると、「胸腺の腫瘍」 となります。
では胸腺とは何か?
腺というと、何かを分泌する器官の印象が強いですが(汗腺、乳腺など)、胸腺は何かを分泌するものではありません。
白血球の一種であるリンパ球(その中でもT細胞)を成熟させ、適切なリンパ球を送り出している器官です。
多くの動物では、幼若の時のみ胸腺が存在し、大人になったら消失するのが通常です。(人では70才くらいまでに退縮が完了するらしい。)
しかし、ウサギでは胸腺が大人になっても残ります。
場所は、ウサギでは心臓の上にあります。
胸腺腫は多くの場合は、体のいろいろな場所に転移したりする悪性腫瘍ではありません。
稀に浸潤性といわれるタイプの胸腺腫もあり、これは転移したりする。ウサギではほとんどない。
しかし、場所が胸の中で心臓の近くなので、肺を圧迫したり、心臓や気管を押したりするため、大きくなると呼吸が苦しくなります。
成長は比較的遅めです。腫瘍全般に言えることですが、若い子の発症では成長は早くなりがちです。
どんな子がなりやすいの
一般的には男の子のウサギに多いとされています。
しかし実際は、女の子でも普通にいます。
発症年齢は6歳以上が多い印象。
症状
腫瘍が小さいうちは症状は出てきません。
圧倒的に最初に気が付きやすい症状は、目が出てくること。
特に、瞬膜といわれる部分が出ていることで気が付くことが多いです。
多くの飼い主さんは大きな病気があるなんて考えてなくて、なんとなく連れて行ってみるかーというテンションでやってきます。
特に胸腺腫でよくみられる目の出かたは以下
- 両目が出る
- 特に興奮したときに出やすい
- 瞬膜がでる
目が出る理由としては、ウサギなど目が真横についている動物では、前を見るときに目をすこし飛び出させます。
その機能を担うのが眼窩静脈叢で、ウサギで発達しています。
眼窩静脈叢の先の、胸の中ある静脈(外頸静脈)が胸腺腫で圧迫されると、眼窩静脈叢で血液が滞り(うっ血)し、目が飛び出ます。
瞬膜は、目が出ると圧迫されるため出てきます。
また、そのほかの要因は、呼吸が早いこと。これで気づいたら大したもの。
安静時(まったりしているとき)に呼吸数が60回/分以上の時は早いと言えます。
(ウサギの正常な呼吸数は30~60回/分)
わたしも学生の時に、うさぎのTPR(体温、心拍数、呼吸数)を一緒に暮らしている子で測ってみようとしてみたとき、そういえば呼吸数が異常に多かったです。でもその時は異常があることなんて考えていなかったため、気が付けませんでした。。。
他には疲れやすいことです。(運動不耐性)
あと、あまり知られていないし、専門書にも書いてないのですが、胸腺腫の子は、ふきゅっ、ぷぎゃっみたいな、咳でもくしゃみでもない音を出すと言われることがあります
実際、わたしの前の子もそうでした。瞬膜が出るより前からあったような、、、??
ま、これはただの経験則です。出さない子もいます。
病院ではなにをする?
病院選びの注意事項
最近はかなりうさぎをきちんと見てくれる病院が増えてきているとはいえ、病院選びはきちんとしてください。
ウサギ専門か、ウサギをよく診ている動物病院が安心。
そうじゃないと、ウサギの目が出ているという症状に対して、胸腺腫が考えられることはなかなか思いつきません。
また、レントゲンを撮ってみても、ウサギの胸腺腫のレントゲン画像は、心不全(心拡大)のレントゲン画像にとてもよく似ているため、犬猫の獣医さんは心不全だと思い込みやすいです。
結果として治療を誤る可能性があります。
病院で行う検査
検査では、まずレントゲンを撮ることがほとんど。
レントゲンでは、肺は黒く映るのが正常ですが、胸腺腫の子では心臓の上のところに、白い影がでます。
ただ、正常な子でも胸腺があり、見えにくいところなので獣医師の目に頼って。
レントゲン上で胸腺腫がありそうだとわかったら、エコー検査をします。
エコーでは、超音波で内部の構造をスライスした画像でみることができます。
ウサギの前胸部腫瘤はほとんど胸腺腫ですが、心拡大などとの鑑別のためにエコーで診ておきます。
病院によっては、胸腺腫であることを確定させるために、エコーを当てながら、腫瘍に針を刺して細胞をとってくる(FNA)検査をしていくこともあります
↑をやる理由としては、胸腺腫以外に考えられる疾患(例えばリンパ腫や膿瘍)ではないことを確かめることにあります。この検査は個人的には、どうせ胸腺腫だし、しなくてもいいかな。という感じですが。胸腺腫とリンパ腫はステロイドを使って治療をするため、どちらだとしても結果オーライです。膿瘍はかなりのレアケース。
治療
胸腺腫の治療には、
- ステロイド療法
- 放射線療法
- (外科的治療)
などがあります。
第一、完治を目指すなら外科的療法になりますが、胸を開ける手術になるため、半分くらいのウサギは手術後すぐに亡くなってしまっているという海外の文献があります。
あまりメジャーな治療ではなく現実的ではないため、括弧にしています。おそらく頼んでもやってくれる(できる)病院は探すのは難しいでしょう。
基本の治療
多くの場合、まず行う治療としては、ステロイド療法です。
ステロイドは胸腺腫を小さくする効果があります。
ステロイドを飲んで治療を始めたら、1週間か2週間くらいでまたレントゲンを撮って胸腺腫が小さくなったかを確認していきます。
ステロイドは肝臓に負担がかかりやすいため、レントゲンで胸腺腫が順調に小さくなっているときは少しずつ用量を減らしていきます。(ステロイドは急にはやめられません)
逆に腫瘍が大きくなってきたらステロイドを増やします。
腫瘍のサイズとの塩梅をとりながら、薬の量を調節するイメージです。
落ち着いてこれば通院の頻度は1~2か月くらいにできるかも
うまくいけば、かなり減らした量のステロイドを飲み続けながら天寿を全うする子もいます。
+αな治療
放射線治療
ステロイド治療に併用して、放射線治療をするとより効果的という文献もあり、実際胸腺腫の子にお勧めすることがあります。
放射線治療は、放射線を当てて腫瘍を小さくする治療で、合計7回あてるというのがプロトコルです。
メリットとしては、放射線を併用すると、平均生存日数がステロイド単独の場合よりも長くなること。
デメリットとしては、毎回麻酔をかける必要があること、放射線の副作用、(あと費用面)です。
また、放射線治療を実施できる病院も限られています。
胸腺腫内の水の抜去
胸腺腫では、よく胸腺腫の腫瘍の中に水が溜まって嚢胞状になっていることがあります。
胸腺腫の悪化で、呼吸が苦しい場合、(対症療法的ですが)いったん針を刺して内部の水を抜くことで、呼吸をしやすくすることができます。
ただ再度内部に水が溜まってくることが多いため、何回もやることもあります。。。
酸素ハウス
なかなかサイズが小さくならない場合、呼吸が苦しくなることがあります。
いったん小さくなっても、再び大きくなってくることもあります。
あらかじめ導入する必要はないと思いますが(というよりあらかじめあると本当に呼吸が苦しい状態に気が付かないため×じゃない?と思います)
呼吸が苦しいときは、呼吸を楽にしてあげるために酸素ハウスがいいかも。
まとめ
胸腺腫は6歳以上のウサギさんに起こりやすい病気です。
特に気が付きやすい症状は眼(+瞬膜)が出ていること。
治療はステロイドで!
呼吸状態はたまに気にしてあげてください
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