基本的に動物と濃厚接触をするのは、獣医師の立場としてもあまり推奨するものではありません。
しかし、今回は人間にキスされるとうさぎにとって害がある、というお話です。
それは人間からウサギにうつる病気の存在です。
今日は多くの人が持つウイルスである、ヒトへルペスウイルスがウサギに移り脳炎を引き起こしたのではないか?という内容の報告を紹介します。
タイトルは Encephalitis in a rabbit caused by human herpesvirus-1(ヒトヘルペスウイルス1型が引き起こしたウサギの脳炎) です。
2009年にアメリカの獣医学会誌(JAVMA)に投稿されたものです。
ヒトヘルペスウイルスHHV-1とは
ヒトヘルペスウイルス(HHV-1)とは、主に口唇ヘルペス(口のぶつぶつ)を引き起こすおなじみのウイルスです。
成人の50-70%くらいの人が感染しているといわれており、高齢者ではさらに高い80%ともいわれています。
通常、ヘルペスウイルスが感染していても、普段は人の神経節のなかで潜伏しておとなしくしています。
そのため普段は目に見える症状を示すものではなく、感染していても全く症状がない人も多くいます。
そして一時的に免疫力が落ちてきたり、ストレス、疲労などにより、ウイルスが活性化し、症状が出ます。
つまり、そんなウイルス自分にはいない、と思っていても、隠れているだけでいるかもしれないということです。
論文の内容
以下で簡潔に論文の内容を紹介します。
原文はこちら
https://avmajournals.avma.org/view/journals/javma/235/1/javma.235.1.66.xm
ウサギさんの情報
生後8ヶ月の未去勢雄ウサギ 2日前からの食欲不振、左目の流涙、歯ぎしり、唾液分泌過多、運動失調のために病院へ行きました。
(流涙、結膜炎はヘルペスウイルスをウサギに感染させる実験でもみらとのれている症状とのことです)
検査により、エンセファリトゾーンや、トキソプラズマ(どちらも脳炎を引き起こしうる病原体)は見つかりませんでした。
治療と転機
対症的な治療を行いましたが、改善はなく悪化する一方であるため、入院してから7日で安楽死となりました。
解剖され、脳組織の組織学的評価により、重度の全体的な脳炎と、神経細胞と神経膠細胞(神経細胞の周りにいる神経細胞のお世話係のような細胞)におけるいくつかの大きな好酸球性核内封入体がみられました。
注釈; 封入体とは:ヘルペスウイルス含むいくつかの種類のウイルスは細胞に感染したときに構造物をつくり、それが封入体と呼ばれます。ウイルスの増殖過程や細胞の反応を示すものです。
遺伝子の検査(In situ hybridization)を行うと、ヒトヘルペスウイルス-1のDNAが検出されました。
安楽死は私たちには少し抵抗があることかもしれません。これは海外の論文で、西洋圏では回復の見込みがない子は安楽死をさせるというの考えが主流なのです。
解剖についても、死因を究明し医学の発展に貢献するため協力的である方が多いようです。
考えられること
飼い主は、ウサギの症状が出る5日前に、口唇と顔のヘルペスウイルスの症状が出ていたと報告していて、ちなみに、ウサギとの接触の仕方も、口―口での接触を含む密接なものだったとのこと。
なかなか酷な現実ですが、ウサギの死後の検査でのウイルスの検出のこともあり、人がウサギへの感染源であったことが疑われました。
まとめ
今回のような、飼いウサギの自然発生的なヘルペスウイルスの発生はあまり診断されていません。臨床現場においてウサギで神経症状がでると大抵はエンセファリトゾーンや内耳炎中耳炎などを疑います。
そのため見逃されやすい可能性があるということ、人におけるHHV-1をもっている割合の高さ、を考えるともしかすると実はエンセファリトゾーンではなくヘルペスウイルスにかかっているという子ももっといるかもしれません。
また、よく公衆衛生的な観点から着目されるのは”人獣共通感染症”といって、動物から人へ感染する疾患です。
そのため、動物との濃厚な接触を防ぐ目的は大体が、人間が感染しないようにすることとなっています。
しかし今回のようなヒトから動物に感染する疾患、”逆人獣共通感染症”がウサギにあることが示されています。
それも、ヘルペスウイルスは人間には対してそこまで大きな害はありませんが、致死率がかなり高い危険な感染症です。
なので、うさぎさんも人間もお互いを守るために、過度な濃厚接触には気を付けたいですね、
うさぎさんとの触れ合いの中で密に接したい気持ちも十分わかりますが、最低限、唾液などはつかないようにしてコミュニケーションをとりましょう。
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