こんにちは。
今日は、特定の毛色のウサギで見られることがある病気について。
気を付けるポイントについても紹介しています。
コラムは少し踏み込んだ内容のため、読み飛ばすのもおすすめです。
物好きさんはどーぞ。
Contents
巨大結腸症について
大まかには、大腸がずっと拡張し、運動性が低下し、症状として排便が遅延し、腸の中でとても大きな糞塊が形成される病態です。
巨大結腸症とありますが、ウサギにおいては盲腸にも同じことが生じます。
ウサギでは特定の品種や、毛色で発生することが言われています。
巨大結腸症とは、英語ではMegacolonと呼ばれています。
人における巨大結腸症について
巨大結腸症とは、結腸(大腸)の神経の異常や何らかの炎症性疾患などの病気が原因となって、結腸の蠕動運動が正常に行われず、腸が大きく膨らむ病気のこと
メディカルノートより引用
ちなみに人では遺伝的(RET遺伝子の欠損)に神経細胞が欠損する先天性と、ほかの病気などに伴って発生する後天性のものがあるようです。
のちに説明しますが、ウサギにおいては、遺伝的に大腸の神経伝達に不具合が起こっていることで生じる病態ですので、人での先天性に近しいと思われます。
猫における巨大結腸症
猫の巨大結腸症とは、大腸の一部である結腸が拡張し、便を送り出す蠕動運動が低下して、 非常に頑固な便秘を引き起こす疾患です。
排泄時間が長くなったり、しぶりを伴うなどの排便困難症状がみられます。
洋光台ペットクリニックさんホームページより引用
また排便時に悲鳴をあげたり、嘔吐をともなうこともあります。
猫では特発性(原因不明の)巨大結腸症は有名です。同様に神経支配や、結腸の筋肉の機能不全が原因であると考えられます。
排便時の悲鳴などをみるとかなり痛いようです。ウサギでは慣れるまではなかなか痛みに気付くのは至難の業ですが、実際巨大結腸症のウサギはかなりぐったりしていることが多く、相当痛いのだと思います。
原因
原因としては、遺伝であるといわれています。
タイトルでも示しました通り、特定の毛色の子での発症がほとんどです。(発症せず長年気が付いていない子もいますが…)
特定の品種で起こるともいわれています。例えばチェッカードジャイアントや、イングリッシュスポットです。(この二つの品種はよく似ています。)
ですが、本物のチェッカードとイングリッシュスポットで起こるわけではおそらくないです。
(特に、チャーリーの遺伝子のチェッカードの15例中15例で巨大結腸症を発症したという研究のインパクトが多きため、チェッカードのイメージが染みついているのでは?と個人的には思います。)
交配の中で生まれてくる特定の毛色の遺伝子を持った子で発症します。
チャーリーといわれる遺伝子の組み合わせパターン(詳しくは以下のコラム)です。
これは上記の品種だけでなく、ブロークンと呼ばれるまだら模様の子が生まれる様々な品種でみられます。
(ブロークン=チャーリーじゃないことに注意!ブロークンをかけ合わせる過程で生まれてくるのがチャーリー。詳しくはコラム)
- ネザーランドドワーフ
- ミニロップ
- ホーランドロップ
- ミニレッキス
- レッキス
- イングリッシュロップ
- フレンチロップ
- アメリカンファジーロップ
- ジャージーウーリー
- ニュージーランド(ホワイトじゃないやつ)
- ポリッシュ
- フレンチアンゴラ
- サテンアンゴラ
- ブリタニアペティート
- ハバナ
- サテン
- ミニサテン
- イングリッシュスポット
- チェッカードジャイアント
(そもそもチェッカードやイングリッシュスポットなんて日本の病院にはそんなに来ませんから、私が見たチャーリーは今のところミニロップばかりな気がします。)
ちなみに一時期、日本ブリードのドワーフホトで巨大結腸症が多発したようです。
このチャーリーの毛色の遺伝子EnEnでは、神経細胞と、平滑筋の中で蠕動運動をつかさどる特別な細胞とのネットワークに変性が起こるようです。
さきほど、”ブロークンの子を交配する過程で生まれるのがチャーリー”とお伝えしました。
ここでは、ブロークン、チャーリー、ソリッド(⁉)の遺伝子について解説します。
これらの違いは、毛色になります。
ブロークン程よいまだら模様
- ブロークン=程よいまだら模様
- チャーリー=少ないまだら模様
- ソリッド=模様なし。単色
ここで”en”、”En”という体の毛色を決める2つの遺伝子が登場します。
”en”は体全体に色を付ける遺伝子
”En”はまだら模様をつける遺伝子
遺伝子はパパうさぎからもらう遺伝子、ママうさぎからもらう遺伝子の2つがあります。
そのため、ウサギはこれらのいずれか2つを持っています。
じゃあ、別々のものを持っていたらどうなるの?
→遺伝子学の世界では、大文字(En)のほうが小文字(en)のほうより強く表れる(優勢)というルールがあります
- ブロークン= En / en = 程よいまだら模様
- チャーリー=En / En = 少ないまだら模様
- ソリッド=en / en = 模様なし。単色
ブロークンというぶち模様のウサギはかわいくて人気です。
ブリーダーさんはこの毛色を効率的に作りたいと考えそうですね。
ブロークン同士を掛け合わせると
ブロークン(En/en) : チャーリー(En/En) : ソリッド(en/en)
2 : 1 : 1
の割合で、ブロークンは1/2の確率です。
ところが、チャーリー(En/En)とソリッド(en/en)を掛け合わせるとなんとすべてがブロークンになるんです。
チャーリーがいたほうが効率の面ではいいです。
そして、チャーリーを絶対に生まれてこないようにと考えると、ブロークンもいなくなる、、、
これがチャーリー廃絶が難しい理由ではないでしょうか。
症状と特徴
離乳期(生後1週間くらい)
まず、チャーリーのウサギ(遺伝的に巨大結腸症になる)は離乳期の時点で残念ながら亡くなることが多いようです。
理由としては、ミルクから固形物への移行が困難であることが言われています。
のちに巨大結腸症になるのは、この段階で生き延びた子たちのようです。
若齢期~中年期
若い時は、かなり食欲が旺盛な子が多いです。
ただ、食いしん坊な子はチャーリーじゃなくてもたくさんいるのであまりあてにしないでくださいね。
便は不整で大きさもバラバラであったり、軟便が出やすかったり、ビー玉くらい大きな便が出ることがあります。
発症すると
全員が発症するわけではないと思われますが、発症するとだんだん粘液が付着した便が出るようになる
腸炎?盲腸などの機能不全なのか、、、?
この状態がなんとなく続く(慢性的な経過)と、痩せ、腹部の弛緩(もったりした感じ)、下痢などがみられます。
急性症状~これがこの病気の怖いところ~
基本的には上記の慢性的な”なんとなく不調”が続くことが多いです。
そこに様々なストレス(急激な気圧の変化や、脱水、繊維質不足、栄養不足など)が重なることで、急に盲腸便秘を生じることがあります。
その時の症状は、まるで急性胃拡張(とにかく誰が見ても痛そう)。
歯ぎしりや、床におなかを押し付けるような動きをしたり、しきりにおなかをなめたりです。
すぐに治療が必要です。→治療へ
しくみ
大きな糞塊の貯留を引き起こす原因としては、大腸の運動性の低下と、排泄路の狭窄の2つが挙げられます。
これにより、長時間の大腸の拡張で、結腸の壁が伸びたままになります。
そうすると大腸の筋肉(平滑筋)や神経に元に戻せない(不可逆)な変化が起こってしまいます
つまり、大腸は本来収縮して中身を送り出す機能を持っていますが、その機能を失い(または低下し)ただの袋のようになってしまうということです。
それが動きが弱いなりに、大きな便を押し出せていればいいのですが、便が長い間あるままだと悪いことが起きるようです。
便が大腸内に長い時あると、便から水分をどんどん吸収していきます。(本来大腸は水分吸収が活発なので)
そうすると、停滞して大きな便が作られているうえ、便はどんどん固くなり、大きく硬い便はなかなか排泄できずに、排便困難という状況になってしまいます。
これが盲腸便秘と呼ばれるものです。
慢性化(=長続きしたり、常在化)した場合は、腸だけの問題でなく全身の問題になることもあります。
例えば
・便が異常発酵し、細菌が出す毒素の吸収
・食欲不振 etc…
診断
たまに、「確定診断なんですか?ほかに考えられることはないんですか?」という人がいますが、
巨大結腸症の確定診断は困難とされています。
仮診断としては、「模様」と「症状(腹部触診で巨大な便がさわれたり)」です
検査で血液検査などを行った場合は、貧血や、低たんぱく血症 (栄養不足ということ) が見られることがあります。
亡くなった後の病理検査(生きている間の盲腸をとってくるのはとても無理。)では、盲腸などに炎症細胞が見られます。
治療
まず、これが一番伝えないといけない。
完治は困難。
原因のところでもお伝えしていますが、腸の機能が一部欠損しているため、残念ながら難しいのです。
そのため、治療は対症療法になります。
目指すところは ” 消化管の消化管の運動と機能を安定させる ” こと
治療の具体例
- 整腸剤
-
おなかを動かしてくれるお薬(例えばプリンペランやモサプリドなど。違うものもあります)
- 抗生物質
-
健康な腸内細菌維持のため。( 例えばエンロフロキサシンなど。ほかにもあります)
- 痛み止め
-
当たり前ですが、痛みはストレス。ストレスは消化管運動を押さえます。痛み止めはとても大切。
(例えばメロキシカムやブプレノルフィンなど。ほかにもあります)
- 輸液
-
血圧維持、脱水改善のため。
また、硬く大きくなりとどまっている便を柔らかくして排泄をしやすくするためでもあります。
これらの治療を頑張って、犬のような便と、下痢が出れば多くの場合は山を越えたという認識です。
予防
どんなに予防していても発症する子も、何もしていなくても発症しない子もいます。
予防にはゴールはないため、一概には言えませんが、予防方法とされているものを紹介します。
まず、ペレットは無制限にあげていいと成書には書かれています。巨大結腸症の子は栄養不足になりやすいためでしょう。
それと同時に繊維質をたくさんあげて、とも
どちらもは無理じゃないか?とは思いますが、私なら、牧草を最初にあげてある程度おなかをいっぱいにした後に多めのペレットをあげます。
あとは繊維質の多いペレットや、グルテンフリーにします。
それと、ご飯の消化管内の滞在時間が長く、腸内細菌バランスが崩れやすいため、腸内細菌を整えるサプリメントも上げるのもいいかと思います。
予防についてはなかなか断言できなくて申し訳ないです。
まとめ
ここまで、ウサギの巨大結腸症の特徴についてまとめました。
- 巨大結腸症:大腸がずっと拡張し、運動性が低下し、症状として排便が遅延し、腸の中でとても大きな糞塊が形成される病態
- 原因は、毛色の遺伝子が深くかかわっている。
- 症状は、軟便やいびつな便、大きな便ができる。
- 急性症状があればすぐに病院へ
- 確定診断は困難
この記事を書いたのは、この毛色のウサギさんと暮らしている方を怖がらせ、”うちの子”について心配させるためではありません。
障害を知ることで、落ち着いた対処、早めの対処をしてもらうためです。
どんなトラブルを抱えた子も、安心できるのはおうちだけです。くれぐれも飼い主さんが不安な目で見つめて、ウサギさんを怖がらせないように。
かなりウサギの獣医療が広まってきたとはいえ、巨大結腸症もちの子と暮らす飼い主さんは、獣医師が知らなくて不甲斐ない想いをされた方もいるかもしれません。
筆者も模様ありのウサギさんと暮らした経験がないため、まだまだ勉強途中ではありますが、巨大結腸症についてはさらに学びを深めて詳細な記事を書こうと思っています。
正直なところ、闘病中の子と一緒に暮らしている飼い主さんのほうがたくさん調べられているため、詳しい気がします。なので、この記事を読んで、「こういうこともあります!」とか、「ここは違うんじゃない?」ということがあったら臆せずにぜひ教えてください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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